読書感想 : 『人はなぜ不倫をするのか』

 

『人はなぜ不倫をするのか』 亀山 早苗  SBクリエイティブ (2016/8/6)

本書は不倫についての新しい視点を提供してくれます。不倫があるのは仕方のないことのようです。

不倫。その名の通り、人の道(倫/みち)にあらざる(不る)行為として認知されています。民法上でも、れっきとした不法行為として定められています。そのため不倫をした者は、大概の場合その代償として大きな社会的制裁を受けることになります。

 

つまり私たちの社会では、不倫は善悪で言ったら完全に悪とされるわけです。そしてそんなことは、確認するまでもなく、誰もが知っていることだと思います。

 

本書は、そんな不倫について踏み込んで考え、不倫についての新しい視点を提供することを目的とします。

 

本書では不倫を測る基準として善悪という倫理的基準を脇に置きます。不倫に対して価値中立な立場を確保した上で、8人の各分野の専門家を呼び、彼(女)らとの対話から、不倫についての新しい見方を探っていく、という手法で本書は進められていきます。

 

8人の専門家は以下の通りです。

 

上野千鶴子 / 女性学・ジェンダー研究者

丸山宗利 / 昆虫学者

竹内久美子 / 動物行動学研究家

島田裕巳 / 宗教学者

福島鉄郎 / 心理学者

宋美玄 / 産婦人科医・性科学者

山元大輔(行動遺伝学者)

池谷裕二 / 脳科学者

 

8人それぞれがそれぞれの立場から展開する不倫論はいずれも興味深く、楽しく読ませてもらいました。ポイントは、本書の帯にもあるように、「誰一人不倫を否定しなかった」ことです。不倫があってもそれはそれで仕方のないこと、というわけです。

 

ところで、一昔前までは、同性愛者や黒人の人々は差別の対象とされ、善悪でいうところの悪として規定されることがありました。それが今では彼(女)らの権利回復がなされつつあり、肌の色や性的嗜好に関わらず誰もが平等に扱われる社会へと進んでいます。

 

つまり善悪の基準は相対的なものです。今の時代の善悪の基準が必ずしも絶対ではありません。

 

そう考えると、現在黒人を差別することがけしからんとされる世になっているように、いずれは不倫はしかたのないこととして社会的に許容されるようになり、さらには不倫を悪とすることがけしからんとなる時代が来るのかもしれません。

 

もちろん、専門家たちが不倫を否定しないとはいえ、現在の社会で不倫が許されることにはなりませんし、本書の議論が不倫を正当化する材料になるわけでもありません。少なくとも私自身は、不倫とは無縁なままに人生を終えたいとも思っています。

 

ですが、常識にくさびを打ち込む視点を提供する本書のような著作は読んでいて面白いです。刺激的な読書体験でした。

 

本を読む歓びの一つは、常識が揺さぶられ、常識に疑問を抱かせられる体験ができることにあると思います。本書はそうした歓びを与えてくれる一冊です。