読書感想 : 『池上彰のあした選挙へ行くまえに』

 

『池上彰のあした選挙へ行くまえに』 池上彰 河出書房新社 (2016/6/20)

本書は池上さんの選挙解説です。

本書は、ご存知、池上彰さんの選挙解説です。

 

参議院議員選挙が明後日に迫っています。そこでこれを機会に選挙についての知識を池上さんに整理してもらいたいと思い、本書を手にとってみました。

 

選挙の解説というと、選挙制度の分類や日本と他国の選挙制度との比較などの教科書的な羅列に終始してしまいがちですが、池上さんは違います。

 

まずは選挙のない社会(具体的には中国)の問題点を具体的に示して、選挙がないとやばいのだなと読者に気づかせることから話を起こしつかみはOKとしてから、選挙の意義や役割の解説に入ります。その解説も、私たちの生活に密着した事例を持ち出しながら進められるため、池上さんの一つ一つの言葉が腑に落ちてきます。

 

例えば「選挙」と選挙によって選ばれる「政治家」を池上さんは次のように説明します。

 

泥棒や強盗に備えて、いつもパトロールしてくれる人を、みんなで雇うという方法もあります。火事が発生したら、ポンプやホースを持って駆けつけてくれる人たちを雇うことも必要になりますね。  こういうときの費用。これが、税金です。自分たちだけではできない仕事を、みんなで出し合ったお金を使って人にやってもらう。この「お金」が税金で、このお金で雇われた人たちが、役人(公務員)ということになります。  公務員たちに税金から給料を払い、仕事をしてもらいます。でも、公務員がきちんと仕事をしているか、誰かが監視・チェックをしていないと、さぼる公務員が出てくるかもしれません。  かといって、税金を出し合った人たちは、それぞれ自分の仕事に忙しく、公務員の働きぶりをなかなかチェックできません。だったら、自分たちの代表を選び、この代表に、公務員の仕事をチェックしてもらったら、どうでしょう。  こうして選ばれた代表が、政治家なのです。政治家を選ぶのが選挙です。選挙で選んだ政治家にも、税金の中から給料を払います。  つまり、政治家たちは、私たちが納めた税金の使い方をチェックするのです。さらに、税金をどんなことに使うか、使い道を決めるのも、政治家の仕事です。  政治家たちが選挙に立候補して、「私が当選したら、こういう仕事をします」という「公約」を発表しますね。あれは、「私が当選したら、みなさんの税金を、こんなことに使おうと思っています」と言っていることと同じなのです。そこで私たちは、私たちが納めた税金を納得できる形で使おうとしている政治家を選挙で選ぼうとするのです。そう考えると、選挙の投票に行かない人は、「私が納めた税金は、何に使ってもいいですよ」と言っているようなものなのですね。

 

”選挙権は大切な権利です。投票してその権利を行使しましょう。”、”政治家は私たちの代弁者です。”といった正論をぶつけられても、そうした言葉はお題目的です。選挙に関心のない人々にとってはまったく響かないのではないでしょうか。それに対して池上さんのように説明されると、選挙や政治家が私たちの生活とは切り離せないものだと思えてきます。池上さんの言葉は選挙を身近に感じさせ、そして正論よりもはるかに投票へと人々を動機づける力があると思います。

 

選挙一般についての解説に続けて、池上さんは様々な選挙制度、選挙制度と政治制度の関連、お金や開票速報などの選挙の裏側等を、教科書的な無味乾燥さとは無縁の語り口でわかりやすく解説していきます。わかりやすさに加えて、そうだったんだーと思わせる一歩踏み込んだ知識を随所に織り交ぜ、読者の知識欲も満たしてくれます。

 

池上解説はまさに名人芸です。その手際の良さに惚れ惚れします。

 

池上さんは多くの方に特に若者に投票に行って欲しいと考えており、そのための一助となればという思いから本書を書いたようです。本書を読むとその思いはひしひしと伝わってきます。

 

選挙に関心がない人が関心を持つようになるには、親族や友人が突如選挙に出ることになるというケースでもない限り、私は本書を読むのがもっとも効果的ではないかと思います。