読書感想 : 『秀吉家臣団の内幕 天下人をめぐる群像劇 』

 

『秀吉家臣団の内幕 天下人をめぐる群像劇』 滝沢 弘康 SBクリエイティブ (2013/9/13)

本書は、秀吉の家臣団に注目し、秀吉の生涯とその時代を見つめ直します。

秀吉はドラマや小説で繰り返し描かれており、ある程度の年齢以上の人でしたら誰もが秀吉の生涯を知っているのではないでしょうか。また、秀吉について程ではないにしても、黒田官兵衛、石田三成を筆頭に、秀吉の有名な家臣についての知識も多くの方は持っていると思います。

 

本書は、秀吉でもなく、官兵衛や三成と言った特定の家臣でもなく、秀吉の家臣団全体にスポットライトをあてます。秀吉家臣団とその変遷に注目することで、語り尽くされた感のある秀吉の生涯と、これまたドラマや小説でおなじみの信長、秀吉、家康の時代を見つめ直す一つの視座を提供することが本書の目的です。

秀吉は蓄財より人材の人でした。

言われてみれば当たり前、とはいっても私はそこに考えが及ばなかったのですが、「最下層」の農民出身の秀吉ははじめは一人の家臣ももっていなかったんですよね。秀吉はまさにゼロから自身の家臣団を創り上げていったのです。

 

秀吉はキャリアの最初期から、つまりなんの力ももっていないころからリクルート活動を積極的に行っていたようです。

 

身分のある武将が小身であった秀吉に付き従うはずがなく、秀吉は正勝や前野長康のような愚連隊的な立場の武将、山内一豊や堀尾吉晴のように零落した武将、自らと同じく下層出身の武将を積極的にスカウトしていた。また、縁者などの子息を引き取り、神子田正治らいわゆる「羽柴四天王」や、加藤清正や福島正則らのような子飼衆の育成も、この頃から積極的にはじめていたようだ。秀吉はこのように、〝手づくり〟で家臣団を構築していった。現実を直視し、創意工夫しながら事態の対応にあたるというのは秀吉の美点だが、それにしても家臣を増やすための努力たるや涙ぐましいものがある。秀吉は家臣一人ひとりを口説き、ゼロから手づくりで家臣団を組み立てる中で、説得力のある言動や人から好まれる振る舞いを学び、相手の心理を掌握する術を身につけていったのだろう。〝人たらし〟といわれる秀吉の明るく、飾り気のない性格は、こうした努力によって形成されたものだったのである。

 

未来の天下人になる人はやはり違うと思わざるを得ません。大事をなすにはまずは人、「蓄財より人材」。本書を読むと秀吉のそうした姿勢の徹底が、秀吉を天下人へと押し上げたと思えてきます。

 

秀吉が出世の階段を駆け上がっていくにつれて豪華になっていく家臣団。家臣団が豪華になっていくにつれて出世の階段を駆け上がっていく秀吉。どちらがより正確であるのかはわかりませんが、秀吉の出世と家臣団の成長が一体となって進んでいくあたりの話は読んでいて痛快です。

 

もちろん、本書に限らずいずれの秀吉の出世物語も十分痛快ではあります。ですが、本書では家臣団と家臣団を築き上げていく秀吉の苦労が詳細に描かれるため、ここまで大きくなるのは大変だったよなあと、秀吉と秀吉家臣団への思い入れのたっぷりこもった痛快感を味わうことができました。

秀吉家臣団は、秀吉の死後崩壊します。その原因は秀吉家臣団が秀吉の個性に依拠していたためです。

秀吉の死後、秀吉家臣団はあっけなく崩壊します。

 

著者はその原因を、最終的には次の点に見ています。

 

いつの時代も、決定権が機構・システムに帰属せず、個人の裁量に任されていると、少なからず禍根を残すというのは世の常だ。

 

秀吉は自分の裁量で大家臣団を築き上げました。そのため、秀吉が生きている間は、家臣団はまとまりを維持し秀吉政権は機能し続けました。ですが、死んだ途端に家臣団にがたが来てしまいます。例えば、石田三成がいくら卓越した手腕の持ち主であったとしても、引き上げてくれた秀吉の後ろ盾がなくなれば三成は力の源泉を失うことになり、三成を認めない勢力が顕在化してくるのです。三成を巡る対立は関ヶ原の戦いへとまっすぐに続いていきました。

 

「秀吉を反面教師」とし、個人に頼る脆弱さを克服して安定したシステムの構築を目指したのが、ご存知の通り家康が作った江戸幕府です。そして家康の思惑通り江戸幕府は長期政権となります。

 

さて、秀吉痛快出世物語と同じく、”システムのない秀吉とシステム構築の家康”という対比も、すでにどこかで聞いたことのあるお話です。それだけとると目新しさはないかもしれません。ですが、家臣団という切り口で、秀吉という個性に支えられた人事体制から家康という個性を排除した普遍的な人事体制への変換としてその辺りの事情を整理する著者の考察は新鮮で、私はこれまでにない知識と理解を得ることができました。

家臣団という視点からの興味深い話が満載です。

戦国時代に実は「軍師」はいなかったという話、秀吉の利休排除の背景には利休と三成という家臣間の路線対立があったという話、三成は優秀すぎる家臣であっただけでなく、秀吉への絶対的忠義の人であり、さらには寡欲の人であったという話。本書には、家臣団という視点をとることで浮かび上がってくるこうした興味深い話もいっぱい詰まっています。

 

秀吉の生涯であれ、信長、秀吉、家康の時代についてであれ、その手の話はもうお腹いっぱい。でも、ちょっと違った視点からそれらを眺め直してみたい。本書はそんなかたにおすすめの一冊です。