読書感想 : 『日本会議の研究』

 

『日本会議の研究』 菅野完 扶桑社 (2016/4/28)

本書は日本会議の実態を明らかにします。

日本会議と聞いてピンとくる人はそうはいないのではないでしょうか。私もそうでした。

 

日本会議とは、「皇室中心」「改憲」「靖国参拝」「愛国教育」「自衛隊海外派遣」という政策の実現を目指す民間の保守団体、右派組織です。

 

そんな一般には名前すらよく知られていないような団体が、今では、第三次安倍内閣のほぼすべての閣僚に日本会議所属議員を輩出するまでに勢力を伸ばしているようです。

 

本書は、政治の世界で一大勢力となっている日本会議を分析し、その実態を明らかにすることを目的とします。

 

著者は、安倍政権の政策実績と日本会議の主張との強い親和性の確認、というより安倍政権と日本会議のずぶずぶの関係の確認に始まり、日本会議の人的構成、活動実態、そしてそのルーツまでを、丁寧な取材と綿密な資料の読み込みによって実証的に説得的に論じていきます。ひとつひとつの取材の結果が、少しずつ結びついていき、日本会議の正体がはじめはおぼろげに、徐々にはっきりとあらわれてくる。読ませてくれます。とてもおもしろいノンフィクションです。私は安倍首相が二度目の首相になったとき、安倍さんの政治力の強さに感嘆したのを覚えていますが、安倍さんが返り咲けた理由が、つまり安倍さんの政治力の源泉が本書を読んではっきりわかりました。

 

具体的な内容についても触れたいのですが、それはやめておきます。理由は、本書は終盤に謎解きストーリーを含んでいるからです。著者は取材の果てに日本会議を裏で牛耳る人物の存在へとたどり着き、そしてその人物の実態を解明していきます。それはまるで謎解きです。私はワクワクながら読みました。そのワクワク感を味わってもらうためにも、ここでは詳しい内容については控えておきます。

”民主主義による民主主義破壊”の警告の本でもあります。

日本には、農業従事者よりもサラリーパーソンのほうがはるかに多いはずです。つまり有権者の数はサラリーパーソンのほうが多いはずです。ですが戦後一貫して農業従事者の声のほうが政治に反映され、補助金をはじめ農業従事者に手厚い政策がとられ続けてきました。

 

民主政治においては数が重要ですが、数があっても必ずしも力にはならない。数が劣っていたとしてもそれをまとめあげれば力になるということです。

 

本書を読んでそんな(ある意味当たり前の)ことを痛感しました。

 

日本会議は圧力団体の中では「規模も小さ」い団体です。ですが大きな政治力を獲得しています。

 

結局のところ、日本会議は民主主義社会で自分たちが望む政策を実現してもうために有効なやるべきことを、「執拗に」「継続的に」やっているようです。国政レベルだけではなく地方においても地道にロビー活動等を重ね、少しずつではあれ地歩を固めてきた。その結果が今なのです。

 

政治活動を取り仕切り、数を力へと変換する能力にも長けています。

 

日本会議事務方が行っているのは、「国歌斉唱」と「リベラル揶揄」という極めて幼稚な糾合点を軸に「なんとなく保守っぽい」有象無象の各種教団・各種団体を取りまとめ、「数」として顕在化させ、その「数」を見事にコントロールする管理能力を誇示し、政治に対する圧力に変えていく作業なのだ。  個々の構成員は高齢でそのくせ考えが幼稚でかつ多種多様かもしれぬが、これを束ねる事務方は、極めて優秀だ。この事務方の優秀さが、自民党の背中を押し改憲の道へ突き進ませているものの正体なのだろう。

 

日本会議の主張に賛否はあると思いますが、日本会議がこれまでに積み重ねてきた運動を否定することは、民主主義を否定することにもなります。民主主義を肯定する以上、民主的な手段で実行されている日本会議の運動を否定することはできません。

 

著者は日本会議の主張は民主主義を破壊するものと捉えています。そのため、

 

このままいけば、「民主的な市民運動」は日本の民主主義を殺すだろう。なんたる皮肉。これでは悲喜劇ではないか!

 

と述べています。

 

民主主義による民主主義の破壊というと、その筆頭はワイマール共和国のヒトラーでしょう。ヒトラーの場合は大衆の支持を後ろ盾にした民主主義による民主主義の破壊でした。ですが、日本会議の(主張が著者の言うように破壊的なものであると言える)場合は、大衆ではなく、ごく一部の強力な圧力団体を後ろ盾にした民主主義による民主主義の破壊になりそうです。

 

歴史を画する新手の登場のような気もします。

 

と、呑気に構えていてよいのかはわかりませんが、本書は日本会議の実態を教えてくれるだけでなく、民主主義が孕むリスクについて警告を発する本としても読むことができると思いました。