読書感想 : 『アメリカのジレンマ 実験国家はどこへゆくのか』

 

『アメリカのジレンマ 実験国家はどこへゆくのか』 渡辺靖 NHK出版 (2015/7/10)

本書は保守とリベラルの対立を軸にアメリカを描き出します。

アメリカという国は、現代に生きる私たち日本人にもっとも大きな影響を与えている国家といって間違いありません。それもあって、肯定的なものから否定的なものまで、日本にはアメリカについての多種多様な言説が存在します。

 

著者はそうした言説には「過剰なバイアス」がかかっており、アメリカの実相を伝えていないと考えます。そこで本書は、アメリカ社会の実相を冷静に描き出し、私たちがアメリカについて考える際の確固とした足場を提供することを目的とします。

 

著者は、アメリカ社会を考える際に第一におさえるべきは、保守とリベラルの対立であるとします。本書はその対立関係を軸にアメリカを分析叙述していきます。

 

保守とリベラルについて、著者は次のように説明します。

 

アメリカは建国以来、連邦政府、つまり中央権力に対する徹底的な懐疑を前提とした社会である。その前提のもとで、保守とリベラルの対立軸がはっきりしている。(中略)アメリカの保守は、市民によるセルフ・ガバナンス(自己統治)を強く重んじる。それゆえ「政府は自由にとって邪魔だ、障壁だ」と考える。片や、リベラルのほうは、自由放任はかえって人間を不自由にする、つまり、「真の自由を実現するために政府が必要だ、中央権力による一定の介入はそのための手段だ」と考える。

 

「保守」は「市民による積極的なガバナンスを重んじ」、「リベラル」は「政府による積極的なガバナンスを重んじる」ということです。

 

アメリカ独立にはじまり、南北戦争、世界恐慌を経てニューディール政策、黄金の50年代、レーガンに始まる保守革命、そして現在のオバマ政権。こうしたアメリカの歴史を保守とリベラルの対立のもとに描き出す著者の手際は鮮やかの一言です。本書を読み進めていくと、この対立構造がアメリカの歴史を一貫して流れる通奏低音であって、最も深いところでアメリカを動かしてきたエンジンのようなものであるとわかります。著者がフェアなアメリカ像を提示するための鍵概念としてこの対立構造を選んだのも納得です。

 

アメリカについての理解をとてもクリアーに整理してもらえました。わずかばかりではありますが、これまでアメリカについてもっていた断片的な知識が有機的に結びつき、知識に血がかよいだした気分です。勉強になりました。

 

面白くて勉強になるアメリカ語りというと、私は映画評論家の町山智浩さんをすぐに思い出しますが、ここにもう一人、気になるアメリカ語りを見つけました。渡辺さんもこれからは要チェックです。(雑駁にまとめると、町山さんは帰納的アプローチ、渡辺さんは演繹的アプローチと言えるかと思います。)

 

できたら著者には、目下キャンペーン真っ最中の大統領選挙の後にでも、”トランブ現象”、”サンダース現象”も含めたアメリカ語りの著作を出して欲しいものです。