読書感想 : 『「絶筆」で人間を読む 画家は最後に何を描いたか』

 

 『「絶筆」で人間を読む 画家は最後に何を描いたか』 中野京子 NHK出版 (2015/9/11)

本書は、画家の人間ドラマに重きを置いた西洋絵画史の解説書です。

本書は西洋絵画史の解説書です。

 

ただし本書は、絵画史の解説書と聞いて、直ちに思い浮かぶようなスタイルをとってはいません。つまり、中世に始まり、ルネサンス、マニエリスム、バロック、ロココ、新古典主義、ロマン主義、写実主義、印象派、ポスト印象派、象徴主義を経て20世紀以降の現代へ至るといった、定番の流れに沿った解説書ではありません。

 

そうしたトレンドに従って絵画史を試みると、どうしても時代のトレンドの枠内に収まるかぎりでの画家や作品の解説にとどまらざるを得ません。著者はそうした枠を取っ払って、画家が「何を描いてきたか、そして最後に何を描いたか」という視点から、画家たちの生身の人生を描き出していきます。最後の作品である「絶筆」に着目するというのは斬新な切り口だと思います。

 

つまり本書は、各時代のトレンドではなく、各画家の人間ドラマに重きを置いた西洋絵画史の解説書です。

 

本書で取り上げられる画家は以下の通りです。ルネサンスから印象派までの巨匠15名です。

 

 

ボッティチェリ

ラファエロ

ティツィアーノ

エル・グレコ

ルーベンス

ベラスケス

ヴァン・ダイク

ゴヤ

ダヴィッド

ヴィジェ=ルブラン

ブリューゲル

フェルメール

ホガース

ミレー

ゴッホ

 

こうした歴史に名を残す天才たち。私たちは彼(女)らの名前とその作品、時代(例えばボッティチェリと『ヴィーナスの誕生』とルネサンス)が結びついても、それ以上のことを知ることはなかなかありません。どの画家も、時代を代表する名画を生んだ天才という同じくくりで捉えてしまいます。本書を読むと、彼(女)らは同じ天才といっても、(当たり前のことなのですが(^^;;  )その人生は十人十色であると思い知らされます。

 

若くして富と名声を手にし、死ぬまで何不自由なく暮らした画家、政治状況に翻弄され続けながら絵筆を持ち続けた画家、流浪の果てに力を認められた遅咲きの画家、生前は名声とは無縁で死後にはじめて認められた画家…

 

著者の明瞭な語り口から紡ぎ出される15人分で15個の人間ドラマはどれも興味深く、読むものをあきさせません。画家と彼(女)らを代表する名画、画家と彼(女)らの絶筆。それらの有機的、必然的連関を示されると、本書に挿絵として挿入されている彼(女)らの作品に血が通って見えだすから不思議です。

 

本書は西洋絵画史を振り返るに際しての、新鮮な視点を提供してくれる一冊です。

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コメント: 2
  • #1

    北極星 (日曜日, 28 5月 2017 22:22)

    『怖い絵〜死と乙女篇』(2009年)、『名画で読み解く/ブルボン王朝12の物語』(2010年)、『名画で読み解く/ロマノフ家12の物語』(2014年)、・・・と同県人(道産子)中野女史の才覚に魅せられ、著作群を読んで来ました。
    女史の専門はドイツ文学・西洋文化史であり、美術や美術史の業界から見れば「専門外の人」。しかし、だからこそ西洋絵画に対する女史の視点や洞察は新鮮で、学校教育の「美術史観」に染められた読者には「痛快」に感じられるのでしょうね。
    但し、15人の画家の「絶筆」に注目した本書については、評価が分かれそうです。画家に限らず、作家や音楽家、映画監督、等々・・・芸術家や創作者にとって遺作や絶筆、最後の作品にどれほどの意味を見いだせるのか、と。 画家も作家も、その作風の最高点(絶頂期)に死を迎えるのは稀である以上、「老兵の最終作」に何の価値があるかと問われれば、一言も無いですから。
    例えば、本書の「ベラスケス」(『青いドレスのマルガリータ』/運命を映し出すリアリズム)は云う。≪ベラスケスは生涯最大の任務(=スペイン・マリア王女とフランス・ルイ十四世の婚姻)・・・無事やりぬいた直後に倒れる。・・・壮絶な過労死だったようだ。・・・61歳で永眠。≫ これが、『怖い絵』の「ベラスケス『フェリペ・プロスペロ王子』」によれば、こうなる。≪ディエゴ・ベラスケスの晩年は、宮廷官吏としての仕事に忙殺され、絵筆を取る機会は激減していた。・・・フェリペ四世の娘マリア・テレサとルイ十四世の結婚式において、城館の装飾責任者をまかされた彼は心身ともに重圧・・・あっけなくこの世を去っている。≫

  • #2

    中村修一 (火曜日, 30 5月 2017 00:39)

    北極星 さま

    コメントをありがとうございます。

    おっしゃる通り、最後の作品が優れた作品とは限りませんよね。

    それはともかく、私は本書をとても楽しく読ませてもらいました。こうしてコメントをいただき、また中野さんの著作を読んでみようかと思いました。