読書感想 : 『<税金逃れ>の衝撃 国家を蝕む脱法者たち 』

 

『<税金逃れ>の衝撃 国家を蝕む脱法者たち』 深見 浩一郎 講談社 (2015/7/16)

租税回避についての地に足ついた理解が得られます。

今世界中でもっとも注目を集めていることの一つが「パナマ文書」ではないでしょうか。パナマ文書により、富裕層による桁違いの規模の租税回避の実態が明らかにされました。

 

その後の報道により、パナマ文書で暴露された租税回避は氷山の一角にすぎず、AppleやGoogleをはじめ、グローバルに事業を展開している世界的大企業の多くは当たり前のように租税回避を行っていると知りました。

 

ううーー 富裕層や大企業が莫大なお金を手にできるのは、社会の様々な恩恵の受けているからのはず。それなのに、彼(女)らは社会維持のための応分の負担をしていない。ただ乗りではないか。許せん。ムキー

 

租税回避の現状を知り、私は直感的に(短絡的に、か)このように思ったものでした。

 

そこで租税回避の実際のところに興味を持ち、手にとってみたのが本書です。

 

本書は、租税回避を民主的福祉国家の維持のための障害とみなし、租税回避を可能にするいまの課税システムの変革を主張します。

 

私の直感と同じ方向の主張だからというわけではなく、本書は内容濃密で読み進むたびにいちいち勉強になるなあと思いながら一気に読了しました。

 

租税回避についての地に足ついた理解を得るにはもってこいの一冊だと思います。

本書の大まかな内容

とても勉強になったので、本書の内容を簡単にまとめておきます。どこをとっても情報量満載です。

 

本書はまず、世界各国の金融や税制を巡る歴史的経緯や経済政策、経済グローバル化、新自由主義的発想の隆盛など、租税回避を可能にし、それを許容している背景を丁寧に説明します。

 

その上で、租税回避のための巧妙な、ただし合法的な道具立てが紹介されます。タックス・ヘイブン、オフショア市場、タックス・プランニング、パス・スルー、メールボックス・カンパニー、信託、プライベート・バンク、秘密口座...

 

そしてさらには、これらの道具立てを組み合わせた「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」といった大掛かりな租税回避スキームがGoogleを例に解説されます。このスキームでは、アメリカ、オランダ、アイルランド、バミューダ島が登場します。各国の備える税制のおいしいところだけを寄せ集め、租税の最小化がなされます。Googleはこのスキームを用いて年間2000億円もの税金を免れているようです。

 

続けて本書は、国別の課税システムの限界を指摘し、国際的な課税システムの構築が急務であると説きます。そうした取り組みとしてトービン税、航空連帯税、個人情報の多国間共有(FATCA)などが紹介されます。

 

そして最後に、租税回避の動きは各国の財政の屋台骨を揺るがすインパクトを持つ看過できない問題であることを示し、国際的な課税システムの構築を通して租税回避が合法である現状を変革し、富裕層や大企業にただ乗りをさせないことが、民主的福祉国家の維持のために不可欠と主張します。

租税回避をする理由も正当です。だからやっかい。

租税回避のための様々な道具立てや、租税回避を阻止するための現在の国際的な取り組みなど、本書は興味深い内容でいっぱいですが、私がもっとも勉強になったのは、本書の序盤で触れられることです。つまり、租税回避を可能にしそれを許容している社会的背景についての話です。

 

まず、おおもとにあるのが各国が採用している「租税法律主義」という考えです。

 

すべての人は、法の下に課される税を軽減させる権利を持っている。そのような結果に至る法の適用に成功するならば、国内歳入庁の調査官や他の納税者がその巧妙さをどのように批判しようとも、税額の加増を求められることはない。

 

つまり、法の穴を見つけて租税回避を行うことは納税者の基本的権利とされるわけです。私たちも、”法の穴を見つける”とまではいわないまでも、少しでも納税額を低くしようと節税に頭を悩ましていると思います。それが批判されないように、富裕層の租税回避も批判されるいわれはないということです。

 

するとこうなります。

 

世界を見渡して事業の最適な拠点配置を行っている点にある。多国籍企業の事業の最適化行動では、税金も、コストの一つとして最適化される。ビジネスは利益の最大化を目標とするから、コストの一つである税金には最小化が求められる。多国籍企業は、グローバルな観点で租税の最小化に向けた、事業最適化のためのシステムの構築をすでに終えている。民主的な法治国家において法を遵守し税を払っていれば、誰からも非難されるいわれはない。

 

企業が租税回避をするのは当たり前です。

 

租税回避に利用される国々にもそれなりの事情があります。例えば、オランダ、ルクセンブルク、スイスは金融立国としてやっていくことを国策としているため、租税回避であれなんであれ様々な金融サービス(スイスの有名な秘密口座も)を提供する業者が自由に活動できる場を提供することが国益につながります。事実、それにより雇用が生まれ、GDPも増大します。

  

アメリカ、イギリスという租税回避を利用している企業の多い大国も金融を基幹産業としているため、金融の機動性を守るため、租税回避を徹底的に阻止するという方向に動けない現実があります。アメリカは、先に紹介したダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチが合法であるとのお墨付きまで与えているようです。

 

そして本書では触れられていませんが、次のようなことも推測できます。

 

企業が租税回避をできるのにそれをせずに利益が減少するのに何も手を打たなければ、株主からの追及を免れることはできないでしょう。企業(資本)の論理としても、租税回避をしなくてはならないのです。

 

また、パナマ文書で話題のパナマをはじめ、法人税を極端に低く設定し、租税回避の温床になっている国々にとっても租税回避を受けれ入れる理由があります。そうした国には小国が多い。そうした国にとっては、大企業のわずかばかりのパーセントの法人税でも国家財政にとっては大きな収益となります。

 

以上からわかるように、租税回避はそれぞれのプレーヤーが確固とした合理性に基づいて振舞っている結果です。

 

やっかいです。これでは租税回避を非合法とするのは並大抵のことでないのがわかります。各プレーヤーに現在の合理性を棄てさせる作業が必要になるからです。

 

私も著者と同様、民主的福祉国家が今後も続いて欲しいと考えています。他人任せの態度で恐縮ですが、著者をはじめ頭のいい人になんとか租税回避を阻止する枠組みを構築していって欲しいと願うばかりです。