読書感想 : 『2020年マンション大崩壊』

 

『2020年マンション大崩壊』 牧野知弘 文藝春秋 (2015/8/20)

マンションが抱える問題を可視化

都心の林立するタワーマンションは、いまやスタイリッシュな都会の象徴です。茨城県内でも、つくばや守谷といった人気の街にはマンションが数多く立ち並び、そうした街のクールさを演出しています。

 

私は田舎の小さな街でマンションとは無縁の生活を送っているからなのかもしれませんが、マンション生活にとくに問題があるとは思っていませんでした。

 

それがどうやらそうでもないようです。

 

本書は、華やかなイメージに覆い隠され外部からではその存在にすらなかなか気づかない、マンションが抱える問題を可視化することを目的とします。 

 

著者は、波状攻撃とばかりにマンションの抱える問題を示し続けます。データや実例を引きながらの解説はとても説得的です。私がマンションに対して抱いていたプラスのイメージはかなりぐらついてきています。

マンションの「スラム化」

著者はいくつも問題を提示していますが、問題の根っこは一つです。それは「高齢化・人口減少」です。それに伴い、「本来は、マンションという共同体は区分所有者が徐々に入れ替わり、新陳代謝が行われていくことを前提」にしていたようですが、その前提が崩れてしまったのです。

 

ここでは数ある問題のうちの一つだけを紹介します。

 

高齢化・人口減少により、地方はいうに及ばず、首都圏郊外でも、そして都心部でも、今ではマンションの「空き住戸」が多くなっているようです。それにもかかわらず新築マンションの供給が続いています。

 

供給過剰の中、老朽化したマンションは商品力を失い、買い手(借り手)を見つけるのは難しくなります。住民に高齢者の割合が増えてくると、「死ぬまで住めればよい」という発想から修繕費等の負担が渋られます(住戸内での高齢者の孤独死も後を絶たないようです)。また、そもそも空き住戸が増えてくると、つまり修繕費の担い手が減少してくると、修繕費の負担ができなくなります。マンションの価値の下落に歯止めがかかることはありません。そんなマンションに相続人も住もうとは思いません。

 

著者は、空き住戸が増え続ける事態をマンションの「スラム化」のはじまりとして警鐘を鳴らします。「新陳代謝」しないマンションの行く末は悲惨です。修繕の行き届かないくたびれた建物に、住民がぽつんぽつん・・・ マンションという共同体は崩壊へと至るのです。

 

今新しいマンションでも結局は同じです。著者によれば、今後も新築マンションは供給され続けます。高齢化・人口減少が終わらない限り、今新しいマンションもスラム化の恐怖からは逃げられません。

まずは問題に目を向けること

他にもマンション管理組合の機能不全問題など、興味深い問題が示されます。マンション所有者(区分所有者)としての義務を果たさず権利だけを主張し、管理組合の円滑な運営を妨げる身勝手なクレーマー高齢者の話などは読んでいてうんざりするほどです。しかもそれが特殊ケースではなく、クレーマーに高齢者が目立つようになっているとのことです。歳をとったら人間ができてくるというのは正しくないようです。

 

今後ますます高齢化・人口減少が進みます。本書を読むと、マンションに明るい未来はないと思えてきます。

 

著者はこうした問題に対する処方箋も示しています。いずれも納得できるものです。ですが、それらは「私権」の制限を伴うもの、つまり社会生活の基盤である私たち自身の権利にメスを入れる必要がある大改革であったりします。著者も認めるように、簡単にできることではありません。問題の解消への道は険しいとの印象を受けます。

 

とはいっても、「首都圏での居住形態は完全にマンションが「主流」」となっている現在、こうした問題から目を背け続けることはできません。私は、マンションの抱える抜き差しならない問題を可視化した著者の功績は大きいと考えます。本書が多くの人の目に触れ、問題が周知されることを望みます。

マンションは買わないほうがよい

ここで、著者の”マンション購入”についての考え方を簡単に整理しておこうと思います。整理しておいたほうが、私自身がもしものときに参照しやすく便利と思ったからですw

 

著者は新築マンションについて次のように述べます。

 

新築マンションは、まっさらな土地の上に新たに建物を建てるので最新性能の住宅設備が備えられ、耐震性も十分に確保された安心・安全な買い物と映ります。  しかし、新築であるがゆえにかかるコストも、買主が負担していることに注意が必要です。一般的に新築マンションの価格には、分譲価格のうち約三〇%程度の経費が含まれているといわれます。土地を仕入れるのにあたっての諸経費、土地の整備費、土壌汚染や液状化がある場合はその対策費、既存建物の解体費、建物を建設する際にかかる近隣対策費、電波障害対策費、販売するための販売センターの設置費、維持管理費、販売会社に販売業務を委託する委託費、デベロッパーとしての本部経費などを積み重ねたうえで、利益分を上乗せして販売するからです。

 

製品でいえば原価に相当する土地・建物の価格に間接費用が上乗せされた新築マンションは、不動産価値という意味で必ずしもお得な買い物とはいえないのです。

 

建物、土地以外の諸経費は、新築マンション購入者によってまかなわれる仕組みのようです。そうした価格に見合った価値が(あるわけが)ない新築マンションを買う人に対して著者は辛辣です。

 

これを喜んで買うという行為は、車を新車で買うという行為とほとんど同じ動機と言ってもよいのかもしれません。つまり、見栄やプライドに近いものなのです。

 

こう言われると、ついつい新車を買ってしまう私は見栄っ張りなのかと考え込んでしまいますが、それはさておき、著者はさらにはこんな皮肉交じりの言葉も。

 

新築マンションはどちらかといえばデベロッパーが勝手に決めつけたライフスタイルをモデルルームという器で訴えかけて、顧客の購買意欲を誘おうとしているものともいえます。  実際の生活においてはモデルルームのような暮らしをすることはありえないのですが、不思議なことにこのモデルルームの魔力は多くの顧客に新しいマンションでの新しい生活を夢見させるのにおおいに役に立っているようです。いわば、マンション購入のためのテーマパークと呼んでもいいのかもしれません。

 

著者によれば、「不動産のプロはマンションは築五年から一〇年の中古マンションを購入するのが一番お得」と考えているようです。諸経費分の負担がないのはもちろん、それぐらいの築年数なら、「設備機器はほぼ最新のものであるし、まだ修繕や更新は必要としません」。また新築物件を買うような「青田買い」のリスクもないわけです。

 

著者が新築マンション購入に否定的であるのは一目瞭然です。

 

不動産のプロである著者は、実際のところ中古マンションですら購入を勧めません。マンションに住むなら賃貸がよいと主張します。

 

賃貸住宅としてのマンションは借りる側にとってはまことに都合のよいものです。短期間暮らすには利便性がよく、住戸の管理がしやすく、安全性の高いマンションは都会の棲家としては格好の住宅です。賃貸であれば、自身の人生の変化、リストラにあう、事故でけがをする、病気になる、地震などの天変地異に遭遇する、様々なリスクが身にふりかかっても「住み替えて」しまえば大きな負担を背負い込む心配はありません。  ましてや二五年後、子供は(いたとしたら)独立して家には夫婦のみ。場合によっては妻と離婚しているかもしれないし、病気になっているかもしれない。人生には想定しなかったような様々な変化があるものです。その時々の状況に応じてその時点の自分の身の丈にあった住居に住み替えていくには、賃貸住宅は価値が高いといえるかもしれません。

 

家賃は「もったいない」のではなく、住むための「必要コスト」とわりきれば考え方も変わってきます。家賃が高くなれば、身の丈にあった別の住戸に移り住むことも自由です。  このように考えると、マンションは賃貸資産として考えるのが一番自然かもしれません。

 

本書を通してマンション問題を叩き込まれた私にとって、著者の主張はまったくもって理にかなっているように思われます。

 

田舎暮らしの私がマンションに住むことはないと思いますが、もしマンションに住むようなことになったらとりあえず賃貸にしておこうと思いました。