読書感想 : 『非常識な建築業界~「どや建築」という病~』

 

『非常識な建築業界~「どや建築」という病~』 森山 高至 光文社 (2016/2/20)

建築業界の非常識の内部告発本です。

新国立競技場問題がマスコミを賑わせていたころ、インターネットのニュース番組、ビデオニュースに出演していたのを拝見したのが、私が著者の森山さんを知るきっかけでした。

 

森山さんは新国立競技場建設計画の杜撰ぶりとお粗末すぎる実行プロセスを、とてもわかりやすく説明してくれました。新国立競技場建設はオリンピックも見据えた、いわば国家の一大プロジェクです。頭のいい人が集まってやっているはずです。にもかかわらず、その中身の体たらく・・・ 森山さんの解説を聞いていて、日本だいじょうぶか、と僭越ながら思ってしまったのを覚えています。

 

さて、本書は建築業界の非常識な現実を広く知らしめることを目的とします。森山さん自身が建築家で、業界の内側の人間です。よって本書は内部告発の本とも言えます。内側を知り尽くした著者による本であるだけあって、話はとても具体的で、建築業界の抱える問題点がはっきりと理解できます。

「どや建築」を生む「オリジナル幻想」

本書の章立てに従って、建築業界の非常識が5つに区分けして挙げられます。

 

私はその中でも、本書のタイトルにもなっている「どや建築」に直接的に関係する非常識の話がおもしろかった。

 

「どや建築」、つまり「どや顔をした建築」とは、建築家の自己顕示欲が勝ちすぎてしまい、そのエリアの地域性や歴史を否定、あるいはそれに対抗しているような「ネガティブなインパクト」を与える建築です。その一例としてあげられるのが、ザハ・ハディドさんの当初採用されていた新国立競技場の設計案です。たしかに、あの宇宙船のような建物が神宮外苑の景観にマッチするとは思えません。

 

そうした建築が生まれる背景には、建築家(著者は、そういった設計をする建築家を「建築家」と区別して、冷ややかに「表現建築家」と呼んでいます)の過剰なまでの「オリジナル幻想」があるようです。

 

オリジナル幻想とは「とにかく新しく独創的なものをつくらなければならない。独創的でなければ誰からも評価されない」という強迫観念をいいます。「幻想」ですから実在する要求ではありません。建築家以外の関係者は誰一人独創的なものなど望んでいなくとも、自発的にそのような目標設定をしてしまうのです。特にバブル期以降に活動を始めた建築家の多くが、このドグマに侵されています。

 

一般大衆からの評価を建築家は気にしていないようです。建築家は建築業界内部だけで通用する常識に支配され、一般大衆の常識からはかけ離れていきます。するとこうなります。

 

雨漏りにしろ、火災にしろ、外壁の剝落にしろ、みずから設計した建物に不具合が生じれば、建築家としては立つ瀬がありません。事故に巻き込まれた方はもちろん、設計を依頼してくれたクライアントにも申し訳ないですし、建築家としての社会的信用にも傷がつきます――と、読者のみなさんは思われるでしょう。  

 けれど、建築家本人は私たちが心配するほど気にしてはいません。なぜなら、業界内における建築家の評価は性能面の瑕疵などを評価の対象から外したところで行われるのが一般的だからです。火災は特殊な例かもしれませんが、多少雨漏りがするとか、夏暑くて冬寒いとか、動線が複雑で使いづらいとか、その手の機能上の欠点は、業界内の評価基準ではお咎めなしなのです。

 

著者によれば「どや建築」にすればするほど構造上の問題が生じやすくなり、耐久性、利用しやすさといった機能性は犠牲になっていくようですが、表現建築家はそういうことも気にしないようです。利用者は目に入っていないのです。するとこうなります。

 

建築は写真表現である。

 

ある建築家の言葉です。完成して立派な写真さえとれれば、あとは野となれ山となれというわけす。

 

あまりの非常識っぷりにあきれるばかりです。

著者の熱い思いが溢れ出ています。

オリジナル幻想という非常識に力点をおいた感想になりましたが、どや建築が生まれる背景には、オリジナル幻想だけではなく、それを許すコンペシステム、歴史的、思想的文脈などの複合的な非常識が絡んでいます。

 

それ以外にも、本書ではマンション傾斜問題で巷間に流布した請負システムに絡んだ非常識などが紹介されます。

 

建築業界にはびこる非常識の根は太く深そうです。

 

かといって、悲観的な読後感を持つことはありませんでした。それは、業界の非常識に挑み実際にそれと格闘している著者の、なんとか業界を変革したいという熱い思いが行間から溢れ出ているからに違いありません。私は読後、気持ちがホカホカしてきました。

 

私は森山さんのこれからに注目していきたいと思いました。とりあえず森山さんのブログをブックマークします(笑)